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ある日突然、村で一番貧しかった家が豪邸を建てた。それと同時に、彼らと揉めていた隣人が、まるで獣のように四つん這いで吠えながら死んだという。誰も口には出さないが、皆わかっていた。あの家は「禁忌」に手を出したのだと。もしあなたが底なしの欲望を抱いたとき、暗闇から聞こえる犬の鳴き声に耳を貸してはいけない。
四国の深く険しい山奥に、冬の寒さと飢えに苦しむ藤吉という男が住んでいました。彼は村で最も貧しい身分であり、どんなに朝から晩まで泥まみれになって働いても、地主への借金は雪ダルマ式に膨れ上がるばかりでした。夜になれば、隙間風の吹き込む粗末な小屋で、幼い子供たちが空腹に耐えかねて声を殺して泣いています。その泣き声を聞くたびに、藤吉の心は少しずつ人間としての正気を失っていきました。真面目に生きていても、この地獄から抜け出すことはできない。そう悟った藤吉の脳裏に、村の古老たちが恐れとともに語っていた「禁忌の呪術」の噂が蘇りました。それは、自らの魂と引き換えに莫大な富をもたらし、憎き敵を呪い殺すことができるという恐るべき外法です。藤吉は、もはや後戻りできない決断を下しました。彼は村の外れで、自分を慕って近づいてきた一匹の野良犬を捕まえました。少しの餌を与えられた犬は、彼を恩人だと信じて尻尾を振っていました。その無邪気な信頼を裏切ることが、これから何世代にもわたって続く凄惨な悲劇の幕開けになるとは、この時の藤吉には知る由もありませんでした。
犬神を生み出す儀式は、想像を絶するほど残酷なものでした。藤吉は凍てつく裏庭の土を深く掘り起こし、捕まえた犬を首だけが地上に出るようにして生き埋めにしました。そして、身動きの取れない犬の目の前に、湯気を立てる極上の肉と新鮮な水を置いたのです。犬の口がギリギリ届かない絶妙な距離に。最初の数日、犬は悲しげに鳴き声を上げ、やがて飢えと渇きが極限に達すると、狂ったように吠え猛りました。その瞳には、かつての恩人を憎む凄まじい怨念の炎が宿っていました。藤吉は、犬の飢餓感が最高潮に達する瞬間を冷酷に待ち続けました。そして数日後、犬が飢えのあまり発狂し、目を血走らせて肉に食らいつこうと体をよじったその瞬間。藤吉は鋭い刃物を振り下ろし、犬の首を一撃で切り落としました。伝承によれば、切り落とされた首はすさまじい執念で宙を飛び、供え物の肉にガッチリと噛みついたといいます。藤吉はその怨念の塊となった首を厳重に封印し、自宅の箪笥の奥深くへと隠しました。こうして彼は「犬神持ち」となったのです。
犬神を手に入れた藤吉の運命は、文字通り激変しました。彼の畑からは古銭が掘り出され、村を襲った疫病や飢饉も藤吉の家だけは避けて通りました。しかし、本当の恐怖はここからでした。藤吉を長年苦しめていた強欲な地主が、突如として奇妙な病に倒れたのです。地主は着物を引き裂き、四つん這いになって床を這い回り、「熱い、痛い、見えない犬に肉を喰い千切られる!」と叫びながら狂乱しました。彼は人間の食事を一切拒否し、床に投げ捨てられた生肉だけを犬のように貪り食うようになり、やがて血を吐いて息絶えました。不思議なことに、地主が死んだ直後、彼が所有していた肥沃な土地と財産の多くが藤吉の手に渡ったのです。村人たちは恐怖に震え上がりました。藤吉が村を歩くたび、その後ろからは誰の目にも見えない無数の犬の足音が「ペタ、ペタ」とついてくるからです。誰もが彼と目を合わせることを避け、地面にひれ伏しました。藤吉は絹の着物をまとい、連日豪勢な食事を楽しみました。しかし、蔵が黄金で満たされていくにつれ、屋敷の中には異様な獣の気配が充満し始めていました。
犬神の決定的な恐ろしさは、それが「究極の飢餓」から生まれた怨霊であるという点にあります。どれだけ富を奪い、敵を呪い殺そうとも、その飢えが満たされることは永遠にありません。年月が経ち、村に藤吉が呪うべき敵がいなくなると、飢えた見えない魔犬は、ついに自らの主人とその一族へと牙を剥き始めました。ある凍てつく冬の夜、藤吉は屋敷の廊下から響く異様な物音で目を覚ましました。恐る恐る襖を開けると、そこには愛する自分の娘が四つん這いになり、狂ったように床板を引っ掻きながら、野犬のような声で吠え猛る姿がありました。娘の赤く血走った瞳は、かつて裏庭で生き埋めにしたあの犬と全く同じ憎悪の炎を燃やしていました。藤吉は絶望のどん底で悟りました。犬神の呪いは、一度生み出してしまえば子々孫々まで決して逃れることができないのだと。狂乱状態のまま、藤吉が封印の箱を開けると、そこはすでにもぬけの殻でした。もしあなたが突然、望むものすべてを手に入れたとしたら、暗闇に耳を澄ませてみてください。あなたの後ろに、見えない獣の足音は聞こえませんか?